タクシー

4年くらい前、大阪で知り合いの人と一緒にタクシーに乗った。
820円のメーターが、降りるその瞬間に900円になった。
隣に乗ってた彼は
クーッ、クーッ、クーッ、クーッ、
と「クーッ」を4回繰り返し、
下向いて「信じられへん」を2回繰り返した。
えーっそれって、そんなに悔しい事なのって、僕は彼の事がほんの少し嫌いになったの覚えてる。
ほんの少しですよ。お父さんのこと好きだけど、鼻毛出てるのはイヤ、みたいな。
先週、タクシーに乗ったら、そん時は僕一人だったんだけど、全く同じ事が起きた。
あっ、今あがった。
うーん、タイミング悪い事もあるさと思って、黙って支払い。
そして同じ事が昨日も起こった。
さすがに2回続くと、悔しい。
あれ、もしかして4年前の彼もそうだったのかも、何度も続いたあげくの事だったのかも。
そう思うと、もっと彼の気持ちをいろいろ想像したり、あるいはどしたのって聞いてみたりもするべきだったような気がする。
もっとも、僕と彼はタクシーの件以後も、普通に仲良く付き合ってるので、今更聞くのもなんか違う。
タクシーの運転手さんによっては、「いっすよ820円で」って言ってくれる人もいる。
「申し訳ないっす、今あがっちゃったしました」と声かけてくれてる人もいる。
そんな一言が無かった事を怒ってたんだろか。
または、そんな自分のタイミングの悪さに、ガッカリする気持ちってのもある、僕はどっちかっていうとそっちの方。
「なんだ、今日はついてない日のなのか」って自分の今日の運勢に舌打ちする。


時折、反対の事にも出くわす。
勝手にまけてくれたり。
でもその時は「今日ついてるよ!!」って気分がハイになるわけでもなく、キツネにつままれたような気分になる。
もっと素直になるべきだろうか。


娘が骨折して入院した時、深夜の帰り道、タクシーに乗った。
結構遠いところだったから5000円くらいの距離かな。
夜も遅いし、いろいろあって疲れ切ってる。
座った瞬間もう目をつぶりたいんだけど、
そんな事お構いなく話かけてくるタイプの運転手さんだった。
たまにそんな事あるでしょ。
なんで病院からタクシー乗ったのか、根ほり葉ほり。そりゃ大変でしたね。
そこまではいいとして、
その後も世間話は延々つづく、野球のこと、天候のこと、道路事情のこと、景気のこと、ありとあらゆる事を喋りかけてくる。
普通の時だったら、なんとなく受け答えて、別にそれがイヤでもないけど、
この日ばっかは、「ちょっと静かにほっといてくんないかな」ってオーラだしつつ、生返事。
そんな時に限って、先方の饒舌パワーはさらにエスカレートしてくるんで、何事かと思った。ついてないな。
そしてようやく家の前についた時、
僕と彼、二人そろってまじまじと、メーターを見つめた。
あ、料金の表示がない。
運転手さんすっかりお喋りに夢中で、メーター倒すの忘れたのね。
とても寂しそうな顔しながら
「じゃ、初乗りだけでいいですよ。660円」と言ってくれた。
「今日は大変だったから、いい事もあっていでしょ」って付け加えて。
これって、ほんとにイイコトなのか、そうでないのか、非常に微妙な気持ちになりながら家に帰ったのを覚えてる。

いろんな事が起こるんだね。