10万枚

昨日のエントリーがわりかし評判よかったので、気をよくして、少し続き。
あのね、気にしてないようで、勝手に書いてるようで、反応を気にしてるのよ。


10万枚ってすごいよね。
一口にいっちゃうけどさ、10万。
僕が学生の頃に、仕事では大先輩のPCMの江口さんて人にこう言われた
「あのな、レコードって分身なんだよ。自分の思いをレコードにするんだよ。
1万枚売れる人は一万枚分に薄められても薄まらない自分を持ってるんだよ。
100万枚売れる人は、自分が100万枚分に薄められても、びくともしない濃さを持ってるんだよ」
僕はとてもビビった。
なにしろ学生だったもんで、ビビった。
レコードが分身だって発想を持った事無い。
言霊とか音魂とか、そんな世界の話だね。自分の羽でハタを織るツルの話にも似てる。
それが正しいのかズレてるのかは未だに分からない。
でも、20年たった今でも、妙に心に残ってる。


10万枚の話だった。
それはすごい数字。
これも昔話だけど、「ロックバンドは一万枚以上売れてはいけない」って事を真顔で話す人が沢山いた。
一万以上売れそうなら出荷停止すべきだ、なんて事を本気で言う人がいた時代が確かにあったんだよ。
なんで一万以上売れたらいけないかというと、ロックだから。
日本のロック人口なんてそんなもんだ、一万枚以上売れるってことはロック以外の力が働いてるはずだ、それはいけない、てな文脈なんだけどね。
今ね、そんな事言ったら笑われるよね。絶対。
でもね、僕が学生の頃はそんな話あったんだよ。
ルースターズロッカーズ、モッズ、それぞれがデビューした頃くらいかな。
それからだいぶ時は流れた。
今はロックで売れる事はいい事になってる。
100万売るアーティストだって、もっと売るアーティストだってたまにいて、しかも「ロック」を保ってる。
それはかなりいいことだと思う。
そんなこんながあって、今のメジャーの採算分岐点は10万とか20万とかになっていく。


計算してみる。
3000円のアルバムが10万枚売れると、3億円だ。
うわぁ3億。
でもねそれは定価ベースなんで、小売店の取り分が約30%で、配送料とか入れるとね、
簡単に1/3は引かれる。
あらら、一瞬で3億が2億になっちゃった。
まだ2億ある。
でもね相当にお金もかかるのよ。売れれば売れたなりに。
印税とかね、宣伝費とかね。
一万枚のプレス代の10倍が10万枚のプレス代だからね。
デカイ会社は社員も一杯よ。
年収300万時代なんて言葉はあるけど、そんな人が10人いれば3千万
100人だったら3億だもんね。
ふだん気がつかない事だけど、ちょいとクラクラするよね。
大丈夫ですか、ついてきてますか。

以前、僕の友達のバンドが某所からレコード出した。
結構な力いれてくれて、PVは豪華、広告もバシバシ、チラシやパンフも一杯。CM出す。キャンペーンいくいく。
これ宣伝費いくらって聞いたら、
5千万。
僕は素直にびっくりした。
「家が立っちゃうよ」素朴な感想がふと出た。
でも、そういう戦いなんだなとは思う。
家立っちゃうよ。


行った事ないけど、ラスベガスとかでね、ポーカーのテーブルあるよね。
このテーブルは最低掛け金100円で、あっちは千円で。
すんごい奥の、分厚いドアの向こうには100万円からしか賭けられないテーブルもある。
そんな話にも似てるかも。


それはそれでいんだけどね。
いいんだよ、勿論。
その場所にも素敵な人は一杯いて、キラキラしてる人も沢山いるのよ。いるいる。尊敬出来る人。
でもね、嫌いなとこもある。嫌いはいいすぎかな、悲しいとこもあるのよ。
最初に大きな風呂敷広げると、いい時はいい、外れるとそこでオシマイ。
いくつものアーティストが2年か3年で契約切られて、そのままどっかいっちゃってなくなっちゃった
ってこと、みたでしょ。
あなたもみたでしょ。
あれはね、そういう事なのよ。
千枚のCDが売れたバンドが次のアルバムで2千枚になったら、喜ぶよね。少なくとも僕は喜ぶ。
しかしながら、そのプロジェクトが10万枚プロジェクトだったら、1000でも2000でも
話になんないよね。
一万枚でも話になんない時もあんのよ。
そんな話。
でも、一万枚てすごくない?
一万人友達いないでしょ、普通。
やっぱすごくない?
10万からみたら足りないんだけどね。


いいも悪いもないで。
構造の違いって事。
無自覚にメジャーのレーベルと契約して、何年かやってみて、幸せ感じる人もいる。
騙されたと感じる人もいる。なんもやってくれない上に放り出されたと感じる人もいる。
それは不幸だなぁ。
バンドやってる年頃って、人生の中でも一番イキイキして輝いてる年頃。
そんな青春がいい思い出であればいいけど、悲しい思い出だと寂しいなぁ。
レコード会社の人だって、口からでまかせ言ってる訳でもない。
彼がやりたいと思うのは、そのアーティストに夢をかけてるからだ。
だから多少サービスもするし、過剰な期待も、実現出来るか出来ないか確証のない夢も語る。
「僕は君を絶対に幸せにします」そう言われたら「ホントかよ、絶対って何」とは言わない。
「まぁ嬉しい。結婚しましょ」ってリアクションが正しいよね。
あとは結果ね。
信じて一緒にやって結果が出るかでないか。
出たらおめでとう。
出なかったら、恨み事、それは寂しい。
これはどんなゲームなのか、どんなテーブルなのか、よくわかってから始めたいなぁ。
本人がクレバーならそれはいい。スタッフがくどいくらいに説明好きでも、いい。まれだけど。
ゴメンゴメン、ゲームじゃ言葉が軽いね。
例えは難しい。


やっぱね、多少臆病に見えても、そのバンドにあわせたプロジェクトをつくる方が好きだなぁ。
デッカイ賭けに出るとさ、一瞬で付き合いが終わっちゃう事あるんだもん。
前作1000枚だったのが、今作は1500枚。
1.5倍だ、やったね。そんな事が言えるといいなぁ。
もっともそれだけだと、仕事として立ちいかないけど。
でもね、500枚売れると、結構嬉しいのよ。
ぼーっとしてても増えないからね、500といえども。


アーティストによってはね、
「一体僕らにどのくらい投資してくれるんですか」って迫る人もいる。マジマジ。ウソみたいだけどホント。
そんな話じゃないじゃんつっても分かってもらえない時もある。
そんな人には丁重にお引き取り願う。
人っていろいろね。
いいわるいじゃないよ、それは単に考え方が違うだけ。
だって、自分だってさ、仮にアーティストだったら、目もくらむ様な宣伝費かけてもらったら嬉しいもん。
莫大な数の人が自分のバンドの為に動いてくれてさ。
会った事もないような、北海道営業所のナンヤラさんも熱心にやってくれてね。
それは幸せよ。
でも自分のバンドが、その人まで抱え込んで、その人も、もっと知らない人もハッピーにさせる責任は生まれるのよ。
限られた時間の中でね。
3年の契約だったら、3年の中でブレイクしなきゃ、答えられないのよ。
5年目で改心のアルバム作っても遅いの。


まぁまぁホントに、いいわるいじゃない。
好みですよ。
どっちとってもいいのよ。納得してれば。
僕は僕の好みとしては、小さくてもいいから確かな事を積み上げて行きたいとは、思ってる。
そんな場所を出来るだけ長く続けていきたいとも、思ってる。
口はばったいけど、こんな会社が持続して、なんだかんだ15年以上、やってるのは一つの奇跡だと思ってる。
だからね、まだまだやりたいなぁ。
よろしくです。