消えた少年たち

今夜は読んだ本の話。音楽無し。


消えた少年たち〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
消えた少年たち〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
あー、これ読んじゃった。
クマさんにブログで勧められたからなんだけど、読んじゃった。
読むこと自体は後悔してないけど、もう少し時期を選べば良かった。
冬休みとかね、いいよ。クリスマス前後ならもっといい。
初見だったので、かなりドーンと来てしまって、活動がしばらく止まってしまった。
読み終わったのに、最後の2章だけ読み返したりね。
おそまきながら、僕もお勧めしますが、本好きの中ではとうに有名なんだろうね。


いろんな事を考えたり思い出したり。


僕は学生の頃はモルモン教にずいぶん縁があったんだよ。
僕の住んでる学生街にある日、二人の男性アメリカ人がやって来た。
大学の正門の真ん前に立って、全員に声かける。「私と友達になってください」
好奇心は重要だ。僕は友達になった。と思った。
でも友達になるという事と布教って一緒でいいんだろうか。
あっちはいいと思ってる。友達だからこそ真実の道に引き入れたい。
でもこっちとしては、とっても違和感ある。
ジョンソンという人は自分の名前を「女運損」なんて書いて笑かしてくれる。
家族写真みせてくれる。
半端ない大家族。
純真な大学生の僕は、この人の家はお金持ちなんだろうなとか、アメリカってそういう国なのかなんて考えてた。
煙草、酒、カフェインすら禁止する戒律だって事はその頃知ってたけど、避妊も拒絶する派もあるって事は随分後で知った。
あれは好意なんだろうなぁ、さかんに洗礼を勧められて、それで別れた。

それから3年後。僕が住んでた風呂無しでトイレが共同のボロアパートに女性が引っ越して来た。
僕の部屋の隣の人は六本木のセリナの厨房で働いてて、深夜働く人だった。
太陽を見ないせいか毎日下痢だった。共同トイレが汚れてるから分かる。
朝方帰って来てガマガエルみたいな声出す女の人とセックスしてた。壁薄い。
こんな所に引っ越して来る女の人ってどんな人。
年若いモルモン教の信徒だった。日本人。
なんかね、本部からの指示待ちだっていうんだよ。決定がでたら大阪でもアラスカでも南極でも行くんだって。
だから、敷金とか礼金とか大枚払ってらんないの。
すごいねその話。
4畳半一間で月1万円。どうみてもそこらで最低だ。
よく探すと近所に三畳で八千円てのがあったんだけど、それは教えない方が親切かも。
顔は思い出せないんだけど、あんな目をした人は滅多にいないなぁ。
同じく学生だった時、学生運動やってたM君が同じ目をしてた。
友達だった。
あるのかないのか分からない革命を信じてた。自分のためでなくて、大衆の為に革命は起こすべきって信じてた。
やってる事はまるっきりチグハグだったんだけどね。彼は本気だったんだよ。
火炎瓶の所持かなんかで捕まって、長いこと入ってた。
小さい罪でもね、ああいうのは最大限の期間で入れられちゃうんだよね。
他に微罪も沢山くっつけられて。目一杯入れられちゃうんだよなぁ。それっきり会ってない。
なんか、同じ目だったなぁ。
そんな彼女が夜遅く僕の部屋の前に立ってた事が有る。
スワっ、これはっなんて期待するよね、僕は20代前半なんだから。ギンギン。
「今日はとてもつらい事がありまして」おっと、なんだなんだ。
「このままじゃ眠れそうにないんです」そうきたか、落ち着け落ち着け
「音楽聞いていいですか」
いいですよって言うよね。いうわさ。彼女は悩んでる。ブルーだ。
ブルーな彼女が男子の部屋で音楽聞きたいってそりゃなんだ。期待するわさ。
彼女はカセットテープを一本取り出した。
ベートーベン。
彼女はそれが聞きたかったのよ。そしてラジカセすら持ってなかったのよ。
聞きたい時は持ってる誰かに借りる、そういう事らしい。
二人で聞く。
彼女は正座。しかたなく僕も正座。
「あのぅ、ドアを開けておいていいでしょうか」
未婚の男女が同室の時はドアを開けておかなくてはいけないらしい。それも戒律。
いいですよ。
真冬だけど、
12月だけどいいですよ。
とても寒い日にドアを開けっ放しにして、差し向かいで正座して一時間、ベートーベンを聞いた。
彼女は深々と頭を下げて、自分の部屋に帰って行った。
ラジカセすらない部屋に。
僕はドアを締める事が出来て、それだけで嬉しかった。雪降りそうだったし。
足がしびれた。
彼女の顔も姿も忘れちゃったけど、あの体験は忘れられない。
今思うと、彼女はなんでラジカセを貸して貰って、自分の部屋で聞くって選択をしなかったんだろうか。
それはずうずうしいと思ったのかな。
寒いからその方が有り難かったと思った。その時は思った。今はそうでもない。
あれはするべくしてした体験だったような気がする。
どんな意味なのかは、まだ分からない。


本の話だった。
書いてある事だけでなくてね、いろんな事思い出させてくれる本、考えさせてくれる本、そんなのがいいの。
別にモルモン教の事ばっかり書いてある訳じゃないので、そっちに興味なくても読めるです。
親子の話だもんね。
基本は親子の話。
親は子に何をしてやれるだろうか。熱意とストレスと理想と回り道。かなり現実っぽい。
親になってから読むと、より一層。

多分ね、若い時に読むといいよ。
そして子どもが出来てからもう一回読む。
あるいは人生の終わりの方でまた読む。
本てそういう楽しみ方出来るからいいね。


長い休みの時が似合う本だとは思う。
明日仕事がある人には勧めない。